連載【今できていることがなぜ当たり前にできなくなったのか】第2回:オーラルフレイル

皆さん、こんにちは。
28CliniC 熊谷院 副院長の多田です。

前回のブログでは、フレイルについての概要を書きました。

・フレイルは要介護と健康の間の状態
・フレイルには社会的・身体的・精神的なフレイルがあること
・徐々に進行すること
・フレイルサイクルを断ち切る必要があること
・適切な介入をすれば元の健康な状態に戻れること
・栄養、身体活動、社会活動が予防の三大柱

今回はお口のフレイル(オーラルフレイル)についてお話しします。

オーラルフレイルの定義は、『老化に伴う様々な口腔の状態(歯数・口腔衛生・口腔機能など)の変化に、口腔健康への関心の低下や心身の予備能力低下も重なり、口腔の脆弱性が増加し、食べる機能障害へ陥り、さらにはフレイルに影響を与え、心身の機能低下にまで繋がる一連の現象及び過程。』とされています。

ややこしいので、簡単に説明すると、噛む、飲み込む、喋るなどの基本的なお口の機能が低下すると、心にまで影響する負の連鎖が生じてしまう一連の流れのことです。

1989年から『8020運動』という80歳で20本の歯を残す運動が始まり、2016年には50%以上の達成率となりました。
そして現在、自分の歯を残す8020運動に加えて、お口の機能を考えるオーラルフレイルの概念が生まれました。これは日本独自のものです。

オーラルフレイルの概念

①口の健康リテラシーの低下
環境の変化(例えば、定年退職などで社会との繋がりが少なくなる)などをきっかけに、自分のお口への関心が下がってしまうフェーズ

②口のささいなトラブル
食事中に少しむせたり、食べこぼしたり、周囲から言葉が聞き取りにくいと言われたりなど、ささいな機能低下が起きているフェーズ

③口の機能低下
噛む力が落ちたり、舌が正しく動かなかったり、機能低下が顕著になったフェーズ

④食べる機能の障がい
ちゃんと噛めない、飲み込めないなど、要介護状態や運動・栄養障害のフェーズ

このようにフェーズが進むごとに身体的フレイルが進行します。
それぞれのフェーズへ、どのように対応すれば良いのか?

全部ではありませんが一部抜粋してお伝えします。

①口の健康リテラシーの低下
②お口のささいなトラブル
→かかりつけ歯科医を見つけること

かかりつけ歯科医とは安心安全な歯科医療の提供のみならず医療・介護に係る幅広い知識と見識を備え、地域住民の障害に亘る口腔機能の維持・向上をめざし、地域医療の一翼を担う者としてその責任を果たすことができる歯科医師を意味します。

要は安心して一生診てもらうことができる知識と技術を持つ歯科医師ということ。
乳幼児期から高齢期までの継続的な管理や適切な歯科医療を提供できる歯科医院を見つけることは非常に重要なことです。毎回お口の中の状態を確認し、歯だけではなく舌の動きなど現状だけでなく、これから起こりうるトラブルについて予測することのできるのはかかりつけ歯科しかいません。

③口の機能低下
→機能の検査をする

身体的フレイルは徐々に進行するため、お口の機能が低下していることに自分で気付く方は非常に少ないです。
訓練された歯科医師や歯科衛生士であれば、その方の表情やお口の中を見ただけで弱っていることが分かりますが、全体像を捉えるために検査が必要になります。

検査結果に対して適切な指導を行いますが、ここで大事なのは患者さん自身の気持ちです。
「なんでも美味しく食べられるようになりたい!」
「健康になりたい!」

私が担当している患者さんに「孫のために長生きしたいから、お口の中を良くしたい!」とおっしゃる方もいらっしゃいました。モチベーションの内容は人それぞれで良いと思います。患者さんが自分から行動することが非常に大切です。

④食べる機能の障がい
→専門医での治療

①〜③までのフェーズと違い、接触嚥下障害は元に戻ることが難しい状態です。なので、③までの状態で食い止めることが非常に重要です。

食べることは人間の強い欲求の一つです。それが奪われることはQOLの低下に直結し、精神的にも影響が大きくなるため、摂食機能療法専門歯科医による治療が必要となります。
摂食嚥下障害に対応している医療施設を検索するのに「摂食嚥下関連医療資源マップ」があります。また日本老年医学会のHPから検索することができます。
オーラルフレイルをご自身でチェックするには日本歯科医師会が発行しているリーフレットを参考にしてください。

ここまでみると、ご高齢の方に関する話なんだなぁと皆さん思われるでしょう。
でも実際は違います。
お口の機能の違い(元々お口の機能が高かったり低かったり)からオーラルフレイルになりやすい人とそうでない人がいます。
その機能を身につけ始めるのは生まれてすぐ、赤ちゃんの頃です。考えてみてください。

子供の頃にお口の高い機能を身につけて、高齢になって機能が徐々に低下する…
子供の頃にお口の機能に問題があり、高齢になって徐々に機能が低下する…

前者と後者、どちらが後に問題が大きくなりそうですか?
もちろん、後者がオーラルフレイルに陥るリスクが高くなります。

ただ、私が危惧することがあります。
お口の機能が低い子供たちが非常に多いことです。
これは食生活を始め、生活習慣が昔と大きく変化しているのが原因と思われます。「お口の機能が・・」と言われて、最初からピンとくる方は正直ほとんどいません。
それくらい一般の方には知られていない分野なのですが、将来的にその患者さんの健康寿命に関わる問題なのは確かなことです。

当院ではオーラルフレイルを改善するプログラムをおこなっています。
先ほどのセルフチェック表で4点以上ついた方は是非、一度体験してください。

ではまた。

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